はじめに

パートやアルバイトで働く方が直面する大きな課題に「年収の壁」があります。106万円や130万円といった金額を超えると社会保険に加入しなければならず、結果として手取り収入が減るのではないかと不安に思う人が多くいます。そのため働き控えを選ぶ方が少なくなく、企業としても「もう少し働いてほしいのにシフトを減らされてしまう」という悩みが現場で続いています。

この問題を解消するため、厚生労働省は2025年度から新たな助成金制度を導入しました。特に注目されるのはキャリアアップ助成金に追加された短時間労働者労働時間延長支援コースと、社会保険適用時処遇改善コースの二つです。いずれも年収の壁を超えて安心して働ける環境を整えるために設計されています。

キャリアアップ助成金(短時間労働者労働時間延長支援コース)

このコースは、社会保険に加入していなかった短時間労働者の週所定労働時間を延長し、一定以上の賃金引き上げとともに社会保険に加入させた場合に助成されます。対象は6か月以上継続雇用されている従業員で、週所定労働時間を増やすことが前提です。労働者1人あたり最大75万円が支給され、企業規模によって支給額に差があります。人材を安定的に確保したい企業にとっては強力なサポートになります。

年収の壁対策としての効果

これら二つの助成金は単なる資金支援にとどまらず、従業員と企業の双方にメリットをもたらします。従業員にとっては社会保険に加入することで将来の年金や医療保障が安定し、安心して働ける環境が得られます。年収の壁を気にせず働き続けられることは大きな安心材料です。企業にとっても、働き控えによる人手不足を防ぎ、人材を定着させやすくなります。さらに助成金を活用することで人件費の負担を軽減しながら処遇改善を進められるため、長期的な採用コスト削減にもつながります。

手続きの流れ

助成金を受け取るには一定の手続きが必要です。短時間労働者労働時間延長支援コースの場合、まず社会保険加入前にキャリアアップ計画書を労働局へ提出します。その後、労働時間延長や賃金引き上げを実施し、6か月間の継続勤務を確認します。そして賃金支払日の翌日から2か月以内に支給申請を行います。計画的な運用が求められるため、専門家である社会保険労務士のサポートを受けることも有効です。

中小企業にとっての活用ポイント

中小企業では人材不足が深刻化しており、採用コストも年々上昇しています。年収の壁を理由に従業員がシフトを減らすと、現場への影響は大きくなります。こうした課題を解決するために今回の助成金を活用すれば、短時間労働者を安定的に働かせることができ、企業負担を抑えながら処遇改善が進められます。人材の定着につながり、結果的に企業全体の安定経営に寄与することが期待されます。

まとめ

2025年度は年収の壁を超えて働きやすい環境を整えるための助成金が新設された重要な年です。短時間労働者労働時間延長支援コースは最大75万円、これらをうまく活用することで、従業員にとっても企業にとっても安心して働ける仕組みを作ることが可能です。

詳細は厚生労働省の公式リーフレットをご確認ください。