1.はじめに – なぜ「常識」はこんなにも違うのか?

私たちが日々、疑うこともなく受け入れている「常識」。それは、長年にわたり、私たちが育ってきた文化、社会、環境によって形作られてきた、いわば思考や行動のOS(オペレーティングシステム)のようなものです。同じOSを持つ者同士であれば、阿吽の呼吸で物事がスムーズに進みますが、異なるOSを持つ者同士が出会うと、些細なことで予期せぬエラーやフリーズが生じることがあります。グローバル化が加速する現代において、私たちの職場には、まさに異なるOSを搭載した、多様なバックグラウンドを持つ人々が集うようになりました。外国人スタッフと働くということは、異なる「常識」を持つ人々と共に目標に向かって進むということです。しかし、ここで立ち止まって考えてみましょう。なぜ、これほどまでに「常識」は異なるのでしょうか?その根源には、それぞれの文化が育んできた独自の価値観があります。歴史、宗教、地理的条件、社会構造など、様々な要因が複雑に絡み合い、人々の考え方、感じ方、行動様式を形作ります。ある文化では当然とされていることが、別の文化では全く理解できない、あるいはタブーとされることさえあります。例えば、時間の捉え方一つをとっても、秒単位で正確さを重んじる文化もあれば、時間にルーズであることにある程度の寛容さを持つ文化もあります。コミュニケーションのスタイルも、直接的で率直な表現を好む文化と、間接的で含みのある表現を重視する文化が存在します。

日本人同士の世代間ギャップでも、コミュニケーションがしっくり取れないことはありますが、また、それとは違った違和感を感じることがあると思います。グローバルな職場で働くということは、これらの「常識」の違いを肌で感じ、時には衝突を経験することでもあります。「まさか、そんな風に考えるなんて!」という驚きや、「どうして、そんな行動をとるのだろう?」という疑問は、異文化理解の入り口に立つ私たちにとって、決して珍しいものではありません。

本稿では、外国人雇用の現場で特に顕著に現れる、異文化間の「常識」のギャップに焦点を当て、具体的な事例を交えながらその深層を探っていきます。時間感覚、仕事への姿勢、コミュニケーションスタイル、私物の扱い、食事や休憩の取り方、そして福祉現場における利用者への接し方まで、多岐にわたる側面から「常識」の違いを浮き彫りにしていきます。

異なる「常識」を持つ人々が共に働くということは、時に困難を伴いますが、同時に新たな発見と成長の機会でもあります。それぞれの「常識」を理解し、尊重することから、より豊かな多文化共生職場が生まれると信じています。

さあ、私たち自身の「常識」というレンズを通して、世界に存在する多様な「常識」を覗いてみましょう。

2. 時間感覚のズレ – 「5分前行動」は当たり前じゃない?

日本の職場で多くの人が実践する「5分前行動」。始業時刻の5分前位には席に着き、すぐに仕事に取り掛かれる準備をしておくこの習慣は、時間に対する日本人の意識の表れであり、周囲への配慮とも言えます。しかし、この「当たり前」は、世界では必ずしも一般的ではありません。

時間感覚は文化によって大きく異なり、大きく分けて「順番重視タイプ(几帳面)」と「同時進行タイプ(やや柔軟)」という考え方があります。

順番重視タイプの文化では、時間は直線的に進み、物事は一つずつ順番に行われます。スケジュールは厳守され、遅刻は基本的に許容されません。日本、ドイツなどがこの傾向にあります。これらの文化では、「時間を守ることは信頼の証」と考えられています。そして日本では、時間を守るだけでなく、少し早めを心がけることが「当たり前」のようになっていて、仕事では特に大切にされています。

仕事の開始時間とは、単にその時間に席にいるだけでなく、すぐに働けるように準備をしている状態を指すことです。
これは就業規則やルールブックを作成する際の大切なポイントです。ただし、仕事の準備をする時間やタイムカードの打刻タイミングはよく裁判の争点になっています。例えば9時始業の会社で、8時45分に打刻して、作業着に着替えてから8時50分には席に着いている場合です。ケースバイケースですが、裁判では負けるリスクもあります。このような場合には、実務的には、就業規則で厳密に定義しすぎるよりも、職場のルールブックの方に、以下のようにやさしい口調で書く方法もあります。
「始業時刻には、すぐに仕事ができるように準備をしておきましょう」

一方、同時進行タイプ(やや柔軟)の文化では、時間は複数の出来事が同時に進行するものであり、人間関係や状況に応じて柔軟に対応します。スケジュールはあくまで目安であり、予定が変更されることも少なくありません。ラテンアメリカ、中東、アフリカなどの文化に多く見られます。これらの文化では、「自分の生活のリズムや家庭生活を円滑に保つことの方が、スケジュールを守ることよりも重要」と考えることがあります。

この時間感覚の違いが、職場で誤解を生むことがあります。例えば、順番重視タイプ(モノクロニック)の日本人からすると、会議に遅刻してくる同時進行タイプ(ポリクロニック)の外国人スタッフは「時間にルーズだ」と感じるかもしれません。しかし、後者のスタッフからすると、「少し遅れることはそれほど問題ではない」と考えるかもしれません。

特に、「5分前行動」は、就業規則に明記されているわけではない、日本社会特有の「暗黙の了解」であることが多いため、外国人スタッフにとっては理解しにくいことがあります。「なぜ始業時間ぴったりではなく、5分前に来る必要があるのだろう?」「その5分間で何をすれば良いのだろう?」と疑問に感じるのは自然なことです。

また、納期に対する感覚も文化によって異なります。順番重視タイプの文化では、納期は厳守されるべき絶対的なものです。しかし、同時進行タイプの文化では、状況によっては交渉が可能であったり、多少の遅れは許容されると考えられたりすることがあります。

このように、時間に対する「常識」の違いを理解することは、外国人スタッフとの円滑なコミュニケーションと協働のために不可欠です。「当たり前」だと思っている日本の時間感覚が、必ずしも世界共通ではないという認識を持つことが、異文化理解の第一歩と言えるでしょう。ただし、仕事では、違いをただ受け入れるだけでなく、教育してゆくことも大切です。

3. 仕事への姿勢 – 個人の裁量 vs チームワーク

仕事に対する考え方は、文化によって大きく異なります。個人が持つ裁量権の範囲や、チームワークをどの程度重視するかといった点は、職場の雰囲気や仕事の進め方に大きな影響を与えます。

日本の職場では、一般的にチームワークが非常に重視される傾向があります。「一丸となって目標を達成する」「皆で協力して仕事を進める」といった考え方が強く、個人の成果よりもチーム全体の成果が優先されることも少なくありません。報連相(報告・連絡・相談)が重視されるのも、チーム内の情報共有を円滑にし、連携を高めるためです。個人の判断で勝手に物事を進めるよりも、周囲と協力しながら進めることが良しとされることが多いでしょう。

技能実習生の出身国に多い、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどでは、一般的に家族や地域社会との結びつきが強く、職場においてもチームワークを重視する傾向が見られます。協力して仕事を進めることや、困ったときには助け合うといった意識が根強い文化があります。しかし、日本人からすると、報連相のタイミングや細かさ、自主的な行動の取り方などの感覚にギャップを感じることがあります。

例えば、ベトナムの方であれば、指示された業務は真面目に取り組む一方で、疑問点があっても遠慮して質問しないことがあるかもしれません。フィリピンの方であれば、陽気に態度でチームに協力することは得意でも、自分の意見を積極的に主張することは少ないかもしれません。インドネシアの方であれば、周囲との調和を重んじるあまり、Yes/Noをはっきり言わないことがあるかもしれません。もちろん、日本人でも一概には言えないので、個人差もありますが、ある程度の傾向性はあるといえます。

これらの違いは、どちらが良い悪いというものではなく、文化的な背景によるものです。しかし、日本の職場で円滑に働くためには、お互いの仕事への姿勢の違いを理解し、歩み寄ることが大切です。

一方、個人主義的な文化を持つ国々では、個人の裁量権が大きく、個人の成果がより重視される傾向があります。自分の専門分野においては、比較的自由に判断し、責任を持って仕事を進めることが期待されます。チームワークも重要視されますが、それは個人の能力を最大限に引き出すための手段として捉えられることが多いかもしれません。例えば、アメリカやイギリスの職場では、個々の役割分担が明確であることが多いでしょう。

この「個人の裁量」と「チームワーク」のバランスの違いが、職場で様々な認識のずれを生むことがあります。

例えば、個人主義的な文化で育った外国人スタッフが、自分の専門知識に基づいて判断し、積極的に業務を進めた場合、日本の職場では「なぜ相談しなかったのか」「チームで連携を取るべきだ」と指摘されることがあります。本人としては、効率的に仕事を進めようとしたまでですが、日本のチームワークを重視する文化の中では、協調性がないと見なされてしまう可能性があります。

逆に、チームワークを重視する文化で育った外国人スタッフが、何かを決める際に常に周囲の意見を聞いたり、確認を求めたりする場合、個人主義的な文化の職場では「自分で判断できないのか」「主体性がない」と捉えられることがあります。

また、目標達成へのアプローチも異なります。チームワークを重視する文化では、皆で協力して一つの目標を目指すことが多いですが、個人主義的な文化では、個々が自分の担当する目標を達成することで、全体としての目標達成に繋げるという考え方が強いかもしれません。

このように、仕事への姿勢における「個人の裁量」と「チームワーク」のバランスは、文化によって大きく異なるため、それぞれの文化的な背景を理解し、尊重することが、円滑な国際的な職場環境を築く上で重要となります。

4. コミュニケーションスタイル – はっきり伝える? それとも、察してもらう?(アジア、男女、職場の視点から)

コミュニケーションのスタイルは、国や文化で大きく異なります。ビジネスの現場では、この違いが思わぬ誤解を生むことがあります。ここでは、世界、特にアジアの国々で見られるコミュニケーションの違いを、もっとシンプルに解説します。

大きく分けて、二つの伝え方があります。

● 何でも言葉でハッキリ伝えるタイプ:
自分の考えや意図を、言葉で明確に伝えます。「はい」「いいえ」もはっきり言います。誤解がないように、具体的に、そして論理的に説明することを大切にします。例えば、アメリカやドイツなど、多くの欧米の国でこの傾向が強いです。

● 言葉にしなくても、お互いに察し合うタイプ:
言葉だけでなく、表情や声のトーン、その場の雰囲気など、色々な情報から相手の意図を読み取ろうとします。直接的な言い方を避け、遠回しな表現を使うことが多いです。「言わなくてもわかるだろう」という考え方があります。日本、中国、韓国、ベトナム、インドネシアなど、アジアの多くの国でこの傾向が見られます。アジアの中でも、韓国は比較的ストレートな表現も用いますが、日本、ベトナム、インドネシアなどでは、より間接的なコミュニケーションが一般的です。ベトナムでは、相手の立場や感情を尊重する傾向が強く、直接的な批判や意見は避けられることがあります。インドネシアも同様に、調和を重んじる文化から、遠回しな表現や非言語的なコミュニケーションが重視されることが多いです。中国も、北方系か南方系かによっても違いますが、状況や相手によって明確に使い分けたり、特に自分の身内と身内以外の境界線がはっきりしている傾向があるかもしれません。

また、男女によるコミュニケーションの傾向も一般的に存在します。多くの文化において、女性の方が共感性や相手への配慮を重視する傾向があり、より間接的で感情豊かなコミュニケーションを取ることがあります。一方、男性はより直接的で論理的なコミュニケーションを好む傾向があると言われることがあります。

職種によってもコミュニケーションスタイルは異なることがあります。例えば、営業職や顧客対応の職種では、相手に合わせた柔軟なコミュニケーションが求められるため、察し合う要素も必要となる場合があります。一方、エンジニアや研究職など、論理的思考が重視される職種では、より明確で直接的な伝え方が好まれる傾向があるかもしれません。

これが職場でどう影響するか、です。例えば、アメリカ出身のスタッフに「ちょっと検討します」とか「前向きの考えます」と言うと、「それはYesなの? Noなの?」と戸惑うかもしれません。彼らには、結論をはっきり伝える方がスムーズです。

アジアの国の人と働く上で大切なのは、日本的な「察して」のコミュニケーションが、言葉の壁もあって、さらに誤解を生みやすくなることを意識する必要があります。「言わなくてもわかるだろう」と思わずに、できるだけ具体的な言葉で伝え、質問しやすい雰囲気を作ることが、誤解を防ぐために重要です。

お互いの文化的な背景を理解し、歩み寄る姿勢を持つことが、多様なチームでうまく働くための第一歩と言えるでしょう。男女や職場の一般的な傾向も意識することで、よりスムーズなコミュニケーションにつながるはずです。

5. 私物の持ち込み・スマホの扱い – 職場の「当たり前」は国によって違う!?

職場で、自分の好きなマグカップを使ったり、ちょっとしたお菓子をデスクに置いたりすること、日本人なら特に疑問に思わないかもしれません。「まあ、個人の持ち物だし」「仕事の邪魔にならなければいいか」と、ある程度寛容な職場も多いのではないでしょうか。休憩時間にスマホでサッと連絡を取るのも、今や当たり前の光景かもしれません。

でも、外国人スタッフにとって、職場の「私物」や「スマホ」の扱いは、私たちと同じ「当たり前」ではないことが多いんです。

もし、あなたが海外で働くことになったとします。外国の職場での「当たり前のギャップ」は、どの国の職場でも起こり得ます。 例えば、ある国では、職場はあくまで仕事をする場所であり、個人的な物を持ち込むのは最小限にすべき、という考え方が強いかもしれません。華美な装飾品はもちろん、家族写真ですらNGという職場もあるようです。自分の好きなキャラクターグッズをデスクに飾るなんて、考えられない!という人もいるでしょう。

また、スマホの扱いも国によっても職場によっても大きく異なります。急用であれば、比較的自由にスマホでSNSを見たりしていいのか、カメラ機能もあるので業務時間中は一切禁止なのか。休憩時間でも管内の許可された場所以外での使用はNG、といった厳しいルールがあるかもしれません。スマホはトラブルになりやすいので特に服務ルールが必要です。

外国人スタッフも同じように、日本の職場の「なんとなくOK」な雰囲気に戸惑うことがあります。「どこまで自分の物を持ってきていいんだろう?」「業務中にスマホを触ったら注意されるかな?」と、小さなことで悩んでしまうこともあるかもしれません。また、宗教上の理由で特定の持ち物を常に身につけていたいという人もいるかもしれません。職場のルールが不明確だと、そうした文化的な背景を持つ人が安心して働けない原因になることもあります。会社の事前説明が不十分だったのに、いきなり人前で叱ったら、翌日から来なくなるようなケースもあります。

この「あるある」な問題、実は就業規則で明確にルール化しておくことで、多くの不安や誤解を解消できるんです。

6. 食事・休憩の取り方 – 宗教や食文化への配慮は、職場の「働きやすさ」に直結

食事や休憩の取り方は、単なる生理的な欲求を満たす行為であると同時に、宗教や文化と深く結びついています。特に、多様なバックグラウンドを持つ外国人スタッフが働く職場では、これらの違いに配慮することが、安心して働ける環境づくりにおいて非常に重要になります。

例えば、宗教上の制約から特定の食品を口にすることができない人がいます。イスラム教徒のハラル、ユダヤ教徒のコーシャなどが代表的です。豚肉やアルコールを避ける、特定の調理法を守るといったルールがあります。また、菜食主義(ベジタリアン、ヴィーガン)の人も、動物性の食品を一切摂りません。

アジアの国々を見てみると、食文化は非常に多様です。

  • インドネシア:
    世界最大のイスラム教徒人口を抱える国であり、ハラル認証された食品への配慮が不可欠です。断食月(ラマダン)には特別な配慮が必要です。
  • ベトナム:
    お米を主食とし、魚介類や野菜を多く摂ります。宗教的な食事制限は比較的少ないですが、特別な時期には避ける食べ物があります。昼食休憩を重視する文化があります。
  • フィリピン:
    キリスト教徒が多数ですが、イスラム教徒もいます。豚肉料理は一般的ですが、ハラルへの配慮も必要です。食事は 社会的な交流の機会と捉える文化があります。
  • インド:
    宗教による食事制限が厳格で、菜食主義者も多いです。

休憩の取り方も文化で異なり、日本では短い休憩が多いですが、国によってはまとまった休憩を好みます。休憩中の過ごし方も、 社会的な交流を好むか、 自分の時間を好むかなど違いがあります。

一緒に働く日本人のためにも、でこれらの点に配慮したルールを定めることが重要です。ハラル対応、菜食メニュー、礼拝スペース、柔軟な休憩時間などが考えられます。

よく聞く話ですが、海外に単身赴任している日本の商社マンが、慣れない土地で元気がない時、日本人の先輩が家に招いて、奥さんの手料理を振る舞ったり、みんなで日本語の動画を見て笑ったりすると、心身ともにリフレッシュできるそうです。これは、言葉や文化が通じない異国で働く外国人スタッフにとっても同じです。定期的に母国料理を職場や交流会などで提供することは、彼らにとって大きな心の支えとなり、職場への安心感や帰属意識を高めることに繋がります。故郷の味や、同じ文化を持つ人とのシェアは、何よりも心の栄養になるのです。

外国人スタッフが安心して能力を発揮するためには、多様な文化背景への理解と配慮に基づいた柔軟な対応が求められます。

7. 利用者への接し方のずれ(介護現場などの一例)

ここでは福祉現場での一例を紹介しますが、利用者さんとの適切な距離感は、他の職種においても、お客様や同僚といった「接する相手」との良好な関係を築く上で非常に重要です。文化によって、一般的な行為であることもあれば、一定の距離を保つことが 礼儀正しい態度とされることもあります。

特に注意が必要なのが、周囲の人との距離感、つまり個人的な空間です。ある文化出身の職員にとっては、近い距離で話しかけることが 親しみ の表れかもしれませんが、別の人にとっては侵入されたように感じてしまうことがあります。何が「適切」な距離かは、文化的な背景だけでなく、個人の性格や関係性によっても異なります。

日本の福祉現場では、利用者さん一人ひとりの個人的な空間を尊重することが基本です。許可なく 体に触れることは慎むべきであり、近い距離で話しかける際にも配慮が必要です。しかし、状況によっては、 密接な 支援が必要な場合もあり、まさに状況に応じた判断が求められます。例えば、親しくなったとしても、インドネシアの方の頭を 許可なく 触ることは、文化的に 失礼な 行為とされています。

アイコンタクトも同様です。ある文化では、相手の目を見て話すことが誠実さを示すとされますが、別の文化では、目線を合わせることは失礼にあたると考えられます。特に高齢者の方とのコミュニケーションでは、文化的な背景に加えて、世代間の価値観も考慮に入れる必要があります。

言葉遣いも、親しさを示すためのくだけた表現が、相手に不快感を与えることもあります。「適切」な言葉遣いは、相手との関係性や状況によって変化します。

このように、利用者さんとの接し方一つをとっても、何が「適切」かは一概には言えず、文化、個人の性格、そして具体的な状況、つまりケースバイケースで判断する必要があります。 就業規則や研修においては、基本的な考え方を伝えつつも、状況に応じた柔軟な対応の重要性を強調することが大切です。これは、福祉現場に限らず、多様な人と接するあらゆる職場において、意識すべき普遍的な原則と言えるでしょう。

このように、就業規則の服務規程やルールブックは、外国人材のいる職場の日本人にも、必要です。

8. まとめ – 違いを理解し、尊重することから始まる

今回は「異文化の常識はこんなに違う」というテーマで、外国人雇用の現場で直面する様々な文化的なギャップについて掘り下げてきました。
どのように、就業規則やルールブックに反映するかについては、別の機会とさせていただきます。

時間感覚の違いから始まり、仕事への姿勢、コミュニケーションスタイル、私物の持ち込みやスマホの扱い、食事や休憩の取り方、そして利用者への接し方まで、私たち日本人が当たり前だと思っていることが、異文化を持つ人々にとっては全く異なる認識や習慣であることを具体的に見てきました。

「5分前行動」に代表される日本の厳格な時間感覚は、世界では必ずしも 常識でなく、同時進行を好む文化も存在します。チームワークを重視する日本に対して、個人の裁量を重んじる文化もあります。直接的なコミュニケーションを好む人もいれば、言葉の裏を読み解くことを重視する人もいます。

職場の私物やスマホの扱い一つをとっても、文化によって許容範囲は大きく異なります。宗教上の理由による食事制限や、休憩時間の過ごし方にも多様な文化が存在します。そして、人と接する際の距離感や言葉遣いは、相手の文化的な背景を理解しなければ、意図せず不快感を与えてしまう可能性があります。

これらの違いは、単なる個性の違いとして片付けるのではなく、それぞれの文化が育んできた大切な価値観の表れであることを理解する必要があります。外国人スタッフとの間に生じる「まさか!」という驚きや、「どうして?」という疑問は、異文化理解を深めるための貴重な 最初のステップと言えるでしょう。

グローバルな職場で共に働くということは、それぞれの「常識」を 絶対的な なものとして捉えるのではなく、多様な価値観が存在することを認識し、尊重することから始まります。違いを知り、歩み寄る姿勢を持つことで、より円滑なコミュニケーション、より 効果的なチームワーク、そして誰もが安心して活躍できる職場環境を築くことができるはずです。

異文化理解は、外国人スタッフのためだけに必要なものではありません。多様な視点を取り入れることは、組織全体の 改善や成長にも繋がります。違いを認め合い、尊重し合う文化を育むことこそが、これからのグローバル社会における企業の 強味となるでしょう。