知的障害と障害年金の基本|制度の仕組みと対象範囲

知的障害は障害年金の代表的な受給対象です。しかし「自分は対象外だろう」と思い込み、申請されていないケースも多くあります。本記事では制度の仕組みや対象範囲を整理し、施設や家族にとっての実務的なポイントを解説します。

障害年金とは

障害年金は、公的年金制度の一部であり、病気や障害によって日常生活や就労に制約がある人に支給される仕組みです。老齢年金・遺族年金と並ぶ年金三本柱のひとつで、生活を支える大切な制度といえます。加入していた制度によって次の二つに分かれます。

障害基礎年金
国民年金に加入していた人が対象で、知的障害や発達障害など広くカバーします。

障害厚生年金
厚生年金に加入していた人が対象で、基礎年金に加えて支給されます。報酬比例部分や配偶者加算がつく場合もあります。

知的障害と障害年金の関係

知的障害は障害年金の中でも最も代表的な対象のひとつです。判定には知能指数だけでなく、食事や身の回りの支度、金銭管理、意思疎通といった日常生活能力が重視されます。特別支援学校を卒業した後や、B型事業所に通う段階で申請されるケースが多いですが、誤解によって申請されないことも少なくありません。

相談事例(就労継続支援B型事業所)
特別支援学校を卒業し作業所に通う息子さんについて、「知的障害は対象外だと思っていた」と家族は申請を諦めていました。
👉 回答:実際には障害基礎年金2級が認定され、年額約83万円の支給が決定しました。生活の安定が増し、家族の不安も大きく減少しました。

相談事例(生活介護事業所・地域密着型))
軽度知的障害の方が、支援員と一緒に短時間の作業を続けていたが、金銭管理や通勤継続が難しく一般就労は断念。
👉 回答:短期間の就労歴があっても生活能力の制約が大きいと判断され、障害基礎年金2級が認定されました。

障害年金の対象範囲

障害年金の対象は知的障害に限りません。発達障害、精神障害、身体障害、難病まで広く含まれます。その中で知的障害は認定件数が多く、施設利用者や家族にとっても重要なテーマです。

令和7年度の障害基礎年金額
1級:1,039,625円(年額)+子の加算
2級: 831,700円(年額)+子の加算

子の加算は第1・第2子が各229,000円、第3子以降は各76,000円です。知的障害を持つ方の多くは2級対象で、年額約83万円が支給されるケースが一般的です。

相談事例(グループホーム)
知的障害のある入居者が生活保護を受けており、退居の可能性が話題に出ていました。
👉 回答:障害年金を申請した結果、年間100万円以上の受給が決定し、入居継続が実現しました。施設としても安定運営につながりました。

認定基準と等級

障害年金の等級はIQの数値だけではなく、日常生活能力や就労の可否を含め総合的に判断されます。

1級
常時介護が必要で、日常生活の大部分に介助が不可欠。

2級
日常生活に著しい制約があり、就労や社会参加に困難がある。

相談事例(地域の小規模作業所・利用者)
軽度知的障害で一般就労を試みた方が、金銭管理や通勤継続が難しく退職に至りました。
👉 回答:短期間の就労歴があっても生活能力の制約が大きいと判断され、障害基礎年金2級が認定されました。就労歴の有無だけではなく、生活全般の制約で評価されます。

申請の流れと注意点

知的障害で障害年金を申請する場合の流れは次の通りです。
主治医に診断書を書いてもらう。病歴・就労状況等申立書を作成する。初診日を証明する資料を揃える。年金事務所に提出して審査を受ける。

初診日の証明が大きな課題になります。出生時から知的障害がある場合、母子手帳や療育手帳、学校記録などが活用されます。

よくある誤解とリスク

障害年金は「働いていると受給できない」と思われがちですが、実際には就労の有無ではなく生活能力で判断されます。生活保護との併用も可能ですが、その場合は障害年金が収入とみなされ、生活保護の金額が調整されます。身体障害だけでなく、精神障害や発達障害も広く対象になります。

まとめ

知的障害は障害年金の代表的な受給対象ですが、誤解により申請されていない人が多く存在します。施設や家族が正しい知識を持ち、早めに申請を進めることが生活の安定につながります。障害年金は本人にとっては生活の柱、家族にとっては将来の安心、施設にとっては定着率と信頼性を高める仕組みです。


FAQ案

Q1:知的障害が軽度でも障害年金は受け取れますか?
はい、可能です。IQだけでなく「日常生活の制限度合い」で判断されます。軽度でも金銭管理や社会生活に大きな困難がある場合は、2級に認定されることがあります。

Q2:就労支援B型に通っている人は対象になりますか?
はい、多くの方が対象です。B型は一般就労が難しいと判断されることが多いため、障害基礎年金2級が認定されやすい状況にあります。

Q3:働いて収入があると年金はもらえませんか?
いいえ。就労の有無ではなく「生活能力や支援の必要度」で判断されます。週数回の短時間就労や軽作業が可能でも、日常生活に著しい制約があれば受給できる場合があります。

Q4:施設職員や家族が代理で申請できますか?
原則は本人申請です。特に専門の社会保険労務士に代理申請を依頼することで、不支給リスクを減らすことができます。

Q5:一度不支給になった場合はもう諦めるしかないですか?
いいえ。再申請や不服申立制度があります。診断書の内容や初診日の証明を見直すことで、後に認定されるケースも多くあります。

【次のブログ記事のご案内】

障がい施設のための障害年金申請② 発達障害と障害年金の認定基準

👉 次回②の予定です

📘 発達障害と障害年金の関係
自閉スペクトラム症やADHDなども対象となり、就労や日常生活の制約が評価の中心となります。

✅ 施設現場で起こりやすい課題
・「就労できているから対象外」と誤解されやすい
・書類作成で家族や支援員の協力が不足しやすい
・初診日の特定が難しいケースが多い

📘 施設が押さえるべきポイント
・生活能力の具体的な制約を丁寧に記録する
・家族・医師・支援員が一体となって申立書を作成する
・診断書と日常生活の実態を一致させる

🔑 メッセージ
発達障害は外見から分かりにくく、誤解されやすい分野です。施設が正しい知識を持つことで、利用者の安心と安定した受給につながります。

👉 記事はこちら:
https://legalcheck.jp/2025/09/xx/shougai-teikei2