発表の要点:全国すべての都道府県で「引上げ」の答申

全国すべての都道府県で「引上げ」の答申

全国すべての都道府県で「引上げ」の答申
厚労省は、各都道府県の地方最低賃金審議会が答申した2025年度(令和7年度)の地域別最低賃金(改定額)を取りまとめて公表しました。答申は47都道府県すべてで引上げ。引上げ幅は63〜82円とされ、地域差はあるものの、全国的に大幅な底上げが続く見通しです。答申は今後、異議申出の手続きを経て、都道府県労働局長が決定します。

全国加重平均は1,121円、前年から+66円で“過去最大”
答申ベースの全国加重平均額は1,121円。前年(1,055円)から66円の引上げで、目安制度開始(1978年度)以降で最大の引上げ幅となりました。最低賃金の“底”が大きく上がるため、パート・アルバイトを多く抱える事業所ほど影響が大きくなります。

発効は10月1日〜翌3月31日の間に順次
都道府県ごとに決定・告示・周知のプロセスを経て、2025年10月1日から2026年3月31日までの間に順次発効する予定です。毎年どおり、地域により発効日がズレるため、給与計算開始月・締め日の設定によっては途中月から最低賃金を切り替える実務が必要になります。

地域間格差は“縮小傾向”が継続
最高額(1,226円)に対する最低額(1,023円)の比率は83.4%で、前年(81.8%)より改善。11年連続の改善となり、地域間の“最低ライン”の差は縮小方向にあります。製造や小売・外食で多店舗を展開する中小企業は、複数県の時給設計を横断的に見直す必要が出てきます。

根拠とプロセス(「目安」→「各県の答申」→「決定」)
8月4日に中央最低賃金審議会が「改定の目安」を提示 → これを参考に各地方審議会が実態を踏まえて調査・審議し答申 → 労使の異議申出手続を経て、労働局長が最終決定、という流れです。今回の公表は「答申の取りまとめ段階」で、個別の最終決定額・発効日は各県の告示を待つ必要があります。

中小企業が着手する実務:時給テーブル契約や就業規則・賃金規程の更新

① 時給テーブルの棚卸し(全拠点)
非正規・短時間・学生アルバイト・シニア雇用などすべての時給設定を抽出し、答申ベースの新最低賃金を下回る候補者が何人いるかを先に洗い出します。複数県に拠点がある場合、県別ラインでチェック表を作成。所定労働時間・深夜割増・休日加算なども併せて試算し、総人件費インパクトを掴みます。別紙に都道府県ごとの改定額一覧があるため、まずは該当県の値と予定発効日を確認しましょう。

② 既存スタッフの“逆転現象”対策(新規採用時給との整合)
最低賃金の底上げで、新規採用の提示時給が既存のベテラン時給を追い越す「逆転現象」が起きやすくなります。短期的には基本給テーブルの段差(10〜20円刻み)を再設計し、勤続・スキル・責任範囲に応じた差を可視化。説明可能性を確保して、不満・離職の連鎖を先に断ちます。

③ 価格・生産性との同時設計(値上げの地ならし)
人件費のみを上げると利益が圧迫されます。単価(価格)・稼働率・歩留まり・原価のどこで吸収できるか、メニュー改定・セット化・時間帯別料金などを含めて同時に設計。小売・外食はピーク時間への人員集中、サービスは予約導線の最適化、製造は段取り替え時間の短縮など、“すぐ効く”現場改善を一つは織り込むのがコツです。

④ 契約や就業規則・賃金規程の更新タイミングを前倒し
パート有期契約の更新月が12月・翌1月にある企業は、“発効日と給与締め”のズレに注意。労働条件通知書の時給額・深夜割増計算・最低賃金条項の文言を早めに更新し、周知(掲示・配布・イントラ)と記録残しまで一連で実施します(周知の有無は後日の紛争で重視されます)。

⑤ 複数県展開は“最高額県”基準での暫定統一も選択肢
採用競合が激しい店舗網では、都道府県ごとに最賃ラインを追うより、いったん最高額県の水準に合わせて全店統一する方が運用が楽なケースもあります。求人媒体の原稿整合社内の公平感が担保でき、採用・定着のシグナルとしても機能します。

⑥ 社外コミュニケーション:求人・既存顧客・取引先
求人は新ライン反映の“即日更新”で応募母数を落とさない。顧客には価格改定の理由(人件費上昇と品質維持)を丁寧に伝えるテンプレを用意。取引先との値決め交渉は、最低賃金の答申を客観的根拠として活用できます(公式発表の数値・時期を資料に添付)。

⑦ キャッシュの見通し:月次PL→四半期ローリング
人件費の増分を月次・四半期ローリングで可視化し、資金繰り表に反映。借入・リスケ・補助制度の検討は“早すぎるくらいに”着手を。最賃引上げを前提にした**生産性投資(省力化・自動化)**の検討も、今年は“待ったなし”です。

⑧ 現場への説明とFAQ整備
「なぜ上げるのか/誰がいくら上がるのか/次はいつ見直すのか」を整理し、説明会で口頭・紙・データの三点セットを配布。問い合わせ履歴をFAQに反映して、同じ質問対応の工数を削減します。

まとめ


今回の答申は、全国加重平均1,121円(+66円)という“過去最大の引上げ幅”です。発効は10/1〜翌3/31の間に順次。経営t対策として、(1)時給テーブル棚卸し→(2)価格・生産性の同時設計→(3)規程・通知書の前倒し更新——などの準備が有効です。

参考 : 2025年度 地域別最低賃金(答申額一覧)

以下は、厚労省が公表した「令和7年度 地域別最低賃金の答申状況」から、47都道府県の最低賃金(円/時)および発効予定日を抜粋した一覧です。括弧内の数字は改定前の地域別最低賃金額

都道府県答申額発効予定日
愛知1,140(1,077)2025年10月18日
三重1,087(1,023)2025年11月21日
滋賀1,080(1,017)2025年10月5日
京都1,122(1,058)2025年11月21日
大阪1,177(1,114)2025年10月16日
兵庫1,116(1,052)2025年10月4日
奈良1,051(986)2025年11月16日
和歌山1,045(980)2025年11月1日
鳥取1,030(957)2025年10月4日
島根1,033(962)2025年11月17日
岡山1,047(982)2025年12月1日
広島1,085(1,020)2025年11月1日
山口1,043(979)2025年10月16日
徳島1,046(980)2026年1月1日
香川1,036(970)2025年10月18日
愛媛1,033(956)2025年12月1日
高知1,023(952)2025年12月1日
福岡1,057(992)2025年11月16日
佐賀1,030(956)2025年11月21日
長崎1,031(953)2025年12月1日
熊本1,034(952)2026年1月1日
大分1,035(954)2026年1月1日
宮崎1,023(952)2025年11月16日
鹿児島1,026(953)2025年11月1日
沖縄1,023(952)2025年12月1日
(他の都道府県については、厚労省「別紙PDF」をご参照ください)

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