振替休日と代休の混同事例

送迎、入浴介助、宿直・休日対応などで「予定外の勤務」が起こりやすい介護現場では、振替休日と代休を混同すると割増賃金や違法運用につながります。本稿は就業規則へ落とし込む実務を整理します。

法定休日は毎週1日(または4週間で4日)を与える義務があります。法定休日に労働させた場合は35%以上の割増賃金が必要で、休日労働を行うには36協定で「休日労働」を定めて所轄労基署へ届出しておくことが前提です。

用語の定義とポイント

振替休日は「前もって」休日と労働日を入れ替えることです。この場合、入れ替えた元の休日は労働日扱いとなり、原則として休日労働にはなりません(割増なし)。ただし振替後も「4週4日の休日」が確保できなければ、その分は休日労働として割増が必要です。
代休は「休日に働いた後の事後の休み」です。休日労働である事実は消えないため、代休を与えても休日割増の支払い義務は残ります(法定休日なら35%以上)。

相談事例
デイサービス事業所で、利用者の急な入院対応で日曜日に職員を出勤させました。管理者は翌週の平日に休みを与えたため「代休を与えたから割増不要」と考えていました。しかし実際にはこれは代休であり、日曜日労働は法定休日労働にあたり、35%の割増を支払う必要がありました。監督署からの是正勧告で未払い残業代と休日割増を遡って支給することになり、職員との信頼関係も損なわれました。

運用事例

  1. 「休日の振替」を明記します。振替は業務上の必要がある場合に行うこと、振替する日と対象者を事前に特定し、原則として所定労働日の前日までに通知する旨を規定します(社内ルールとしての期限設定)。
  2. 「代休」を明記します。代休は事後付与であること、取得期限(例:発生から2か月以内)と未取得時の賃金清算方法を規定します。休日割増の支払い義務が残ることを明記すると紛争予防に有効です。
  3. 「法定休日」と「所定休日」を区別して用語定義します。割増率や36協定の対象範囲が異なるため、条文中の用語は統一します。

勤務間インターバル

夜勤明けの扱いを曖昧にすると、実労働時間の算定や深夜割増の支払い漏れにつながります。シフト表に「法定休日」「所定休日」「夜勤明けの休息」を明確に表示し、勤務間インターバル(終業から次の始業までの休息)を就業規則や運用規程で確保します。厚労省はインターバル導入の目標を掲げ、導入・運用マニュアルも公開しています。

勤務間インターバル 会社は、労働者の健康確保および労働能率の維持向上を目的として、勤務間インターバル制度を導入する。 具体的には、終業時刻から次の始業時刻までに原則として11時間以上の継続した休息時間を確保するよう努める。 業務上やむを得ない場合でも、9時間を下回らないように配慮する。 厚生労働省は勤務間インターバルの導入を推奨しており、導入・運用マニュアルも公開している。 当社もこれに沿って、業務シフト作成時・時間外勤務命令時には十分に留意し、制度の定着を図る。


運用規程の事例
厚生労働省が公開している「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」に基づき、制度の定着を図る。勤務シフトを作成する際は、勤務間に11時間以上のインターバルが確保されるよう調整すること。時間外労働や夜勤の終了時刻が遅くなる場合は、翌日の始業を繰り下げる等の調整を行う。やむを得ず9時間を下回る勤務シフトとなる場合は、所属長が事前に確認し、本人の体調・安全に配慮する。

運用の実務ポイント

事前の振替で4週4日の休日が確保されているかを月次で点検します。休日労働と時間外労働の区分を給与計算で分け、法定休日35%、時間外・深夜の各割増率を誤集計しないようにします(月60時間超の時間外は50%以上)。また、36協定の「休日労働」を忘れずに届出し、届出上限を超えないよう管理します。

振替休日と代休の違いは「事前か事後か」。違いは割増賃金と違法リスクに直結します。介護のシフト運用に合わせて、就業規則へ用語定義、通知期限、取得期限、清算方法、インターバルの確保までを明文化すれば、未払いと紛争の多くは避けられます。


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介護の就業規則⑩ 年末年始・お盆など繁忙期の休暇規定と割増賃金

📘 繁忙期の休暇ルール
年末年始やお盆などの繁忙期における休暇付与の扱いと、勤務を命じた場合の割増賃金について整理します。

✅ 介護現場で起こりやすい課題
・繁忙期に有休を消化できず、計画的付与も機能しない
・年末年始の勤務に対する割増率が不明確で職員とトラブル
・所定休日と法定休日を混同して誤計算

📘 運用のポイント
・年末年始・お盆の休暇規定を就業規則に明示
・勤務を命じた場合の割増率(法定休日35%以上、深夜25%加算など)を統一
・代替要員や計画的付与制度を活用して人員不足を調整

🔑 メッセージ
繁忙期こそ休暇規定と割増賃金の明確化が不可欠です。就業規則に落とし込み、現場のシフトと連動させることでトラブル防止につながります。

👉 記事はこちら:
https://legalcheck.jp/2025/09/xx/kaigo-rulebook10/