介護施設では人手不足のなかでどうやって有給休暇や特別休暇を付与するかが常に課題となります。デイサービス、特別養護老人ホーム、グループホームなどでは、利用者の生活支援や送迎が毎日発生するため、誰かが休むとすぐにシフトが回らなくなる現実があります。有給休暇は労働基準法で義務付けられ、特別休暇も人材定着や採用強化の観点から導入が進んでいます。今回は、介護事業所における有休・特別休暇の付与方法と、現場でよくある相談事例、さらに人員不足との両立策について解説します。
有給休暇の基本ルールと介護施設での相談事例
労働基準法39条では、労働者に年次有給休暇を付与することが使用者の義務と定められています。フルタイム職員は6か月継続勤務し、8割以上出勤すれば10日の有給休暇が発生し、その後は勤続年数に応じて最大20日まで増加します。
介護施設ではパート・非常勤職員が多く、比例付与の仕組みが重要です。週3日勤務の送迎ドライバーや、午前だけ入浴介助に入るパート職員でも、労働日数に応じた有休が発生します。
相談事例①
デイサービスの管理者から「パートの職員が“週3日の勤務なのに有休がもらえるのか”と聞いてきた。人手不足なので与えなくてもいいのでは?」と質問を受けました。
👉 正解は「比例付与で有休が必ず発生する」。付与しないと労基署の是正勧告につながります。
また、事業所が持つ「時季変更権」は万能ではありません。たとえばグループホームで「夏休みシーズンに有休希望が集中したから全員禁止」といった運用は違法です。事業運営に重大な支障がある場合のみ、他の日に変更をお願いできるという限定的な権利です。
特別休暇制度の導入とメリット
近年は法定外休暇である「特別休暇」を導入する介護施設が増えています。代表的なものは慶弔休暇、リフレッシュ休暇、誕生日休暇、ボランティア休暇などです。
相談事例
グループホームの経営者から「慶弔休暇は正社員だけに付与している。パートには不要ですか?」という相談を受けました。
👉 回答は「合理的な理由なく区別すればトラブルになる」。近年の判例でも、非正規職員への休暇差別は違法とされ、慰謝料支払いを命じられた例があります。
特別休暇の導入は人材確保にも有効です。「この施設は休みが取りやすい」という評判は採用に直結します。さらに「人材確保等支援助成金」などの対象となるケースもあり、制度設計次第で資金面の支援も得られます。
人員不足と休暇取得の両立方法
最大の悩みは「人が足りないのに休暇をどう回すか」です。介護施設の現場で使える具体策を整理します。
① 有休計画付与制度の活用
年次有給休暇のうち5日は労働者が自由に取得しますが、残りについては事業所が計画的に付与可能です。デイサービスでは「お盆や年末に全員休みにする」、特養では「交代制で月1日必ず休ませる」といった形で導入できます。
② 常勤・非常勤の役割分担
入浴介助や送迎など限定業務を非常勤に任せることで、常勤職員の休暇調整に余裕が生まれます。たとえば、ショートステイで常勤職員が有休を取る際、パートを一時的に増員する方法があります。
③ 外部人材・派遣の活用
小規模デイサービスでは、利用者送迎が重なると急に人手が不足することがあります。このようなときのために派遣会社や登録ヘルパーと契約を結んでおくと、突発的な有休にも対応できます。
④ ICT・業務改善の導入
介護記録や請求業務をICT化することで業務効率を上げ、残業削減と休暇取得を両立できます。これらの取り組みは「業務改善助成金」の対象になる場合があり、経営的にも有利です。
トラブル事例と判例から学ぶ
相談事例
特養で「有休を使わせてほしい」と申請した職員に対し、施設長が「人が足りないからダメ」と拒否。結果、職員が労基署に申告し、是正勧告と未払い残業代の支払い命令を受けました。
相談事例
デイサービスで慶弔休暇を正社員にのみ与えていたところ、パート職員から差別だと訴えられ、裁判で慰謝料支払いが命じられました。
これらの事例は「人が足りないから休暇を与えない」という判断が、結局は経営リスクを拡大させることを示しています。
まとめ:介護施設における休暇制度は人材確保の条件
有給休暇は法定義務、特別休暇は人材定着の武器です。デイサービスや特養、グループホームが人員不足を理由に休暇を軽視すれば、訴訟や離職、労基署是正勧告というリスクが待っています。
一方で、計画年休の導入、常勤・非常勤の役割分担、派遣や登録ヘルパーの活用、ICTによる業務効率化などを組み合わせれば、休暇制度を「コスト」ではなく「経営改善策」として活用できます。さらに助成金制度を取り入れれば、休暇制度の整備が経営の支えとなります。
介護施設における休暇制度は「人材が辞めない職場づくり」の基本であり、法令遵守にとどまらず採用力を高める最大の武器になるのです。
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