変形労働時間制の目的と種類

制度の狙い
日々の利用者数や支援内容の変動に対応しつつ、法定労働時間を平均して調整する仕組みです。介護・福祉の現場では、曜日や時期ごとの繁閑に合わせて柔軟に運用できるメリットがあります。

1か月単位と1年単位の違い
1か月単位は最も一般的で、シフト勤務に広く適用されます。1年単位は繁忙期と閑散期が明確な事業に有効ですが、導入要件が厳格です。事業実態に応じた選択が欠かせません。

相談事例(デイサービス) シフトを前日に差し替えて周知していた
翌日の利用者増に合わせて急きょ職員を配置しましたが、勤務割表が直前確定ばかりになっていました。
👉 回答:直前確定の常態化は制度無効のリスクがあります。勤務割表はあらかじめ確定・周知し、やむを得ない変更時は本人同意を得るフローを明文化します。

導入手順と就業規則の必須記載

規程化の必須事項
変形労働時間制を導入する際は、適用期間・対象部門・勤務パターン・所定労働時間の算定方法を就業規則に明記する必要があります。

勤務割表の確定・周知
勤務割表はあらかじめ確定し、職員に周知しなければなりません。直前差し替えを繰り返すと制度自体が無効とされるリスクがあるため、運用ルールを固めることが重要です。

相談事例(障害者支援施設) 勤務割表を掲示せず口頭で指示していた
利用者の通所状況に応じて口頭でシフトを伝えていたが、書面やシステムでの周知は行っていませんでした。
👉 回答:勤務割表の事前確定と周知は法律上必須です。掲示やシステム配信により全員が確認できる仕組みを導入し、規程に定めてください。

シフト設計の実務ルール

勤務パターンの事前定義
早番・日勤・遅番など標準パターンを定義し、その組み合わせでシフトを作成します。

繁閑の配分設計
繁忙期と閑散期の勤務時間を見取り図として示し、週平均40時間の範囲で管理することが求められます。

相談事例
「直前にシフトを差し替えたところ、『変形労働時間制が無効ではないか』と職員から指摘を受けました」
→ 直前確定の常態化は制度無効とされる可能性があります。一定期間前に確定・周知し、やむを得ない変更時も本人の同意を得る運用が必要です。

兼務・移動・中抜けの時間管理

送迎等の付随業務
送迎や記録業務など付随業務をどう算定するかを明確にしておきましょう。

中抜け時間の扱い
中抜け時間は「労働時間」か「休憩」かを明確にし、就業規則で定義します。打刻方法も統一する必要があります。

相談事例(グループホーム) 送迎の合間の1時間を休憩扱いにしていた
待機場所から離れられず、利用者対応が随時必要でしたが休憩として処理していました。
👉 回答:実質的に拘束がある場合は労働時間に該当します。休憩とするなら自由利用を保障する必要があります。規程に基準を明記し、打刻ルールを統一してください。

勤怠乖離への対応とエビデンス管理

予定と実績の差分処理
予定と実績が異なる場合は、修正フローを定型化し、承認権限や締切を明示することが必要です。

保存すべき記録
勤務割表、実績表、同意履歴、システムログを一定期間保存し、調査や監査に備えます。

相談事例(生活介護事業) システムと実打刻が食い違っていた
実際の打刻とシステム上の勤務時間が異なり、集計が混乱しました。
👉 回答:原則は実打刻を優先します。差異の理由を記録に残し、両データを保管することでトラブル防止と指導対応につながります。

よくある誤りとリスク回避

直前確定の常態化
勤務割表を直前に確定するのは制度無効リスクを高めます。

割増計算ミス
所定時間超過や深夜割増を誤ると未払い残業の原因になります。

固定残業との混同
「変形労働時間制」と「固定残業(みなし労働)」は別制度です。誤用に注意が必要です。

まとめ

導入を成功させる三原則

  1. 規程の明確化
  2. 勤務パターン化と周知
  3. 証跡管理の徹底

この三原則を守れば、変形労働時間制は現場の柔軟性と法令遵守を両立させ、安定した運営につながります。

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就業規則入門⑤ 夜勤・シフト勤務の規定方法|障害福祉事業での実務ポイント

👉 次回⑤の予定です

📘 夜勤・宿直の基本ルール
夜勤者の配置基準や宿直の定義、深夜割増の支払いルールを整理します。

✅ 現場で起こりやすい課題
・仮眠中もコール対応があり、休憩扱いにしてしまう
・宿直手当の金額や割増条件が曖昧でトラブルになる
・夜勤と宿直の違いが規程で不明確になっている

📘 就業規則に盛り込むべき内容
・宿直の定義、仮眠中断時の扱い、割増発生条件
・宿直手当の金額設定と支給ルール
・夜勤者の配置基準と休憩時間の確保方法

🔑 メッセージ
夜勤・宿直は労務トラブルが多発するテーマです。
就業規則に具体的に定め、運用を徹底することで「残業代請求」や「不払いリスク」を未然に防ぐことができます。

👉 記事はこちら:
https://legalcheck.jp/2025/09/xx/shougai-rulebook5/



参考資料

労働基準法 第32条
労働時間は、1週について40時間、1日について8時間を超えてはならない。

労働基準法 第32条の2(1か月単位の変形労働時間制)
一定期間を平均して1週間の労働時間が40時間を超えない定めをした場合においては、その定めに従うことができる。

労働基準法 第32条の4(1年単位の変形労働時間制)
1年以内の一定期間を平均し、1週間の労働時間が40時間を超えない範囲で労働させることができる。

最高裁判例:大星ビル管理事件(最三小判 平成14年2月28日)
勤務割表が適切に作成・周知されていなければ、変形労働時間制は無効とされ、時間外労働として扱われることが確認された。