介護業の就業規則の第1回目になります。

介護保険サービスの対象形態

訪問系サービス
訪問介護、訪問入浴介護、訪問看護、訪問リハビリテーション、定期巡回・随時対応型訪問介護看護など。職員は単独行動が多く、移動や直行直帰勤務もあるため、労働時間や残業管理を規則に明確化しないとトラブルにつながります。

通所系サービス
通所介護(デイサービス)、通所リハビリテーション(デイケア)、認知症対応型通所介護など。送迎業務や日中の介助に伴い勤務シフトが変動するため、始業・終業・休憩の取り扱いを規則に定めることが欠かせません。

短期入所系サービス
短期入所生活介護や療養介護(ショートステイ)。夜勤・宿直を前提とするため、深夜割増や夜勤手当の規定を欠くと労務トラブルに直結します。

施設系サービス
介護老人福祉施設(特養)、介護老人保健施設(老健)、介護医療院、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など。24時間体制が必須で、交替勤務・夜勤規程を整える必要があります。

地域密着型サービス
小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能、地域密着型通所介護、認知症グループホームなど。小規模運営が多く「10人未満だから不要」と誤解されがちですが、労務トラブルの発生率はむしろ高いため、就業規則整備は必須です。


介護保険サービスの特徴

  • 根拠法:介護保険法
  • 対象者
     65歳以上 → 要介護・要支援認定を受けた人
     40〜64歳 → 特定疾病により要介護認定を受けた人
  • 費用負担:原則1割(一定所得以上は2〜3割)。高額介護サービス費制度あり
  • サービス利用計画:ケアマネジャーがケアプランを作成
  • 支給限度額:要介護度別に月額上限あり

就業規則が求められる背景

介護保険法に基づく厳格な制度
介護保険サービスは法制度に基づいて提供されるため、職員の勤務形態も制度適合が前提。就業規則は「社内ルール」にとどまらず、行政監査や制度要件に対応するための必須文書となります。

労務トラブルが発生しやすい現場
無断欠勤、シフト変更、残業代未払い、休憩時間未取得などは日常的。さらに利用者との接触が多いため、事故やハラスメント対応の規定を整備しておかないと経営リスクが高まります。

行政調査・労基署対応
就業規則の未整備や周知不足は、是正勧告や加算停止の原因となります。介護業界は人材不足が深刻なため、評判の悪化は致命的です。

就業規則に盛り込むべき内容(介護業特有)

  • 夜勤・交替勤務の規定:始業・終業・休憩・夜勤手当・仮眠扱いなどを明記
  • 送迎業務の取り扱い:勤務時間への算入、事故時の責任範囲を明確化
  • 感染症・事故対応:転倒・誤嚥・感染症発生時の行動規範をルール化
  • 処遇改善加算との連動:キャリアパスや研修制度を規則に反映し、加算要件を担保

まとめ

介護業の就業規則は、制度適合・行政対応・人材定着の三つを支える経営基盤です。
サービス形態ごとに勤務実態が異なるため、共通ルールに加えて形態別補足規程を設けることが現実的です。

就業規則は会社を守る防波堤であり、従業員に安心感を与えるメッセージでもあります。安定運営のためには早期整備と定期的な見直しが不可欠です。



参考:介護保険関連の法律と条文

介護保険法

第1条(目的)

この法律は、加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態となり、入浴、排せつ、食事等の介護、機能訓練並びに看護及び療養上の管理その他の医療を要する者等について、これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付を行うため、国民の共同連帯の理念に基づき介護保険制度を設け、その行う保険給付等に関して必要な事項を定め、もって国民の保健医療の向上及び福祉の増進を図ることを目的とする。

第9条(被保険者)

介護保険の被保険者は、次に掲げる者とする。
一 65歳以上の者(第1号被保険者)
二 40歳以上65歳未満であって医療保険に加入している者(第2号被保険者)

第19条(要介護認定)

市町村は、被保険者から要介護認定又は要支援認定の申請があったときは、速やかに認定を行わなければならない。

第40条(介護給付の種類)

介護給付は、次に掲げる保険給付とする。
一 居宅介護サービス費の支給
二 特例居宅介護サービス費の支給
三 地域密着型介護サービス費の支給
四 特例地域密着型介護サービス費の支給
五 居宅介護福祉用具購入費の支給
六 居宅介護住宅改修費の支給
七 居宅介護サービス計画費の支給
八 特例居宅介護サービス計画費の支給
九 施設介護サービス費の支給
十 特例施設介護サービス費の支給
十一 高額介護サービス費の支給
十一の二 高額医療合算介護サービス費の支給
十二 特定入所者介護サービス費の支給
十三 特例特定入所者介護サービス費の支給


労働基準法

(就業規則の作成及び届出の義務)第89条
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
四 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
五 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
六 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
七 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
十 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十一 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項

労働契約法

(就業規則と労働契約)第7条
就業規則は、労働契約の内容となる。

(就業規則の変更)第9条
使用者が就業規則を変更する場合において、その変更後の就業規則が合理的なものであり、かつ、労働者に周知されているときは、労働契約の内容となる。

障害者総合支援法

(目的)第1条
この法律は、障害者等が基本的人権を享有する個人としてその尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害者等が自立した日常生活または社会生活を営むことができるよう、必要な支援を行うことを目的とする。



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